正常な判断力で、治療に臨むために
心が苦しくても、「そんなことで助けを求める必要などない」「めんどくさいから辛いままでいいや」、と思う人もいるかもしれません。
しかし、とくに「適応障害」や「うつ病」といった強い心の苦痛がある場合は、早くケアを受ける必要があります。
なぜなら、強い心の苦痛は自分らしい正常な判断力を損なうため、治療に差しさわります。こころの苦痛が強くなると、ほとんどのことに興味がなくなり、本来の気持ちとは裏腹に、治療や療養に対して投げやりな姿勢になってしまいます。
また、家族など身近な人が苦痛を感じることも多くなります。身近に接している人々は、本人が何かつらい状態にいることを漠然と感じ、夜眠れないのを知っていたり、本来の状態でないことを悲しんでいたりします。
なので、率直に気持ちを話すことで、周囲の人と一緒に問題に取り組むことができます。
そして、何より患者さん本人がつらいということです。
「うつ病」や「適応障害」を経験したがん患者さんからは「体験を振り返るととてもつらかった」という声が多くあります。そうした苦痛は、ときに体の痛みを引き起こしたり、元からあった体のつらさを増強したりすることもあります。
心の苦痛には、有効な治療法があることも知っておくと良いでしょう。
心のケアに関して担当医や看護師に相談しにくかったり、周囲の人にも相談できない場合は、患者会やがん相談支援センターに相談するという方法もあります。
あなたは、あなたの専門家
多くのがん患者さんが心に苦痛を抱えていますが、その程度や内容は様々です。
告知による衝撃、手術前の不安など、状況による違いもあれば、個人の体力や心の余裕、療養の支えとなるものの有無によっても違ってきます。
個々人の心の状態や、苦痛による心身への影響は、検査で客観的にわかるものではなく、本人が訴えなければ医師にも見立てが難しいものです。
一例として、下の表のような調査結果があります。担当医は患者さんの抑うつの程度を実際より低く見積もりがちだというものです。
この調査によると、患者さんに重いうつ病がある場合でも、担当医が「軽い抑うつ状態」とみていた割合が38%、「抑うつ状態でない」とみていた割合が49%もありました。
また、「不眠」の程度も担当医は実際より少なく見積もりがちだという調査があります。
担当医による抑うつの評価 | 患者の抑うつの程度 | ||
なし | 軽い | 重い | |
なし | 79% | 61% | 49% |
軽い | 18% | 33% | 38% |
重い | 3% | 6% | 13% |
あなたの苦痛については、あなた自身が専門家です。自分のつらさを伝え、医師や看護師と対話を重ねて、共に良い方法を探しましょう。
そして、担当医や精神腫瘍医・精神科医は、治療に関する専門家です。頼れるところは頼りましょう。
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参考文献 : 国立がんセンターのこころと苦痛の本 - 監修 清水研 / 里見絵理子 / 若尾文彦