乳がんは、自分で見つけることのできる数少ないがんの一つです。…
前回、乳がんのセルフチェックの方法を記載しました。
セルフチェックで乳房にしこりを感じた場合でも、すべてが乳がんであるとは限りません。しこりの症状がある他の病気の可能性もあります。
乳がんとその他の病気のしこりの違い
自分の乳房をチェックしているときにしこりを感じると、「乳がんかもしれない」と不安になります。
一般に、乳がん以外の病気によるしこりはやわらかく、触るとよく動くのに対して、乳がんのしこりは固くてごつごつしているといわれています。
乳房は、エストロゲン*やプロゲステロン*といった女性ホルモンの影響を受けて乳腺が大きくなるため、月経周期により乳腺が硬くなり、痛みやしこりを感じることがあります。
しかし、しこりの痛みの原因が、乳がんではない乳腺の病気であることもあるので、月経周期に関係のないしこりに気づいたら専門医を受診してください。
*エストロゲン
「卵胞ホルモン」とも呼ばれる女性ホルモンのひとつ。
おもに卵胞や黄体から分泌される。子宮や乳腺の発達を促すホルモンで、40代後半から分泌量が減少すると更年期症状を引き起こす。
*プロゲステロン
「黄体ホルモン」と呼ばれる女性ホルモンのひとつで、排卵後、卵胞が黄体に変化するとともに分泌される。
子宮内膜を厚くして受精卵が着床しやすい状態にするなど、妊娠の持続に作用する。妊娠後は胎盤からも分泌される。
乳腺周辺で見られる良性のしこり
乳がん以外の、乳房にしこりがみられる病気としては「乳腺症」「乳腺炎」「乳腺線維腺腫」「葉状主要」が代表的です。
いずれも乳がんは関係のない良性の変化や腫瘍で、原因や治療法はそれぞれ異なります。
乳腺症
30~40歳代の女性に多く見られる良性変化で、しこりに加えて、乳房の痛みや張り、乳頭からの異常分泌などの症状がみられます。
女性ホルモンの分泌とのかかわりが大きく、月経前にしこりが大きくなるなどの症状が出て、月経後には縮小するのが特徴です。
月経周期と連動した症状の場合は、様子をみていても良いですが、月経周期と関係のないしこりや痛み、血液が混じった乳頭分泌物が見られた場合は、乳がんが隠れている可能性もあります。
乳腺炎
産後の授乳期に多く、乳汁のうっ滞や細菌感染によって起こる乳房の炎症です。
おもな症状は、赤い腫れ、痛み、膿、しこりで、発熱や悪寒、ふるえなどの症状を伴う場合もあります。
通常は抗生物質による治療を行いますが、乳頭から細菌が侵入したことによる化膿性乳腺炎など、重篤化したときには乳房を切開して膿を出さなければなりません。
ただし、まれに炎症性乳がんであることもあり、高熱を伴わないのに乳房が腫れる場合は受診が必要です。
乳腺線維腺腫・葉状腫瘍
10代後半~40歳代の女性に多くみられる良性腫瘍で、コロコロとしてよく動くしこりが特徴です。しこりが複数個できることもあります。
女性ホルモンの影響によるものであるため、閉経後には自然にしぼんでしまうことがほとんどです。
乳がんの発病とは関係なく、しこりが大きくなったり、気になる場合以外は経過観察とされますが、急速に大きくなる「葉状腫瘍」などの場合は、切除する治療が行われます。
参考文献:国立がん研究センターの乳がんの本 – 監修木下貴之
国立がん研究センター中央病院乳腺外科科長 / 田村研治 国立がん研究センター中央病院乳腺・腫瘍内科科長/通院治療センター長